自宅での転倒事故を防ぐ!
ご高齢者の救急事故で一番多いのが自宅での転倒事故です。
転倒による骨折がきっかけで身体の動きに制限を生じたり、その後の介護が必要になる場合もあります。
日本の救急医療の専門医師としてご活躍されてきた尭天(ぎょうてん)桂子先生が、ドイツに暮らす私たちのために、自宅での転倒事故について分かりやすく説明してださいます。
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今回は転倒事故を防ぐことの大切さをお伝えしたいと思います。
転倒防止は、特に中高年の方々にとってこれからの健康寿命を延ばすためにとても重要です。
日本の平均寿命は今や男女とも80歳を超えて、男性80.9歳、女性87.1歳(2016年)となっていますが、一方で健康寿命は男性72.1歳 女性74.1歳(2016年)です。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活への影響がない期間のことです。平均寿命と比べて健康寿命は男女ともに10年前後のギャップがあり、この間は何らかの治療や介護が必要となっています。
● どのような原因で介護が必要になるのでしょうか?
国民生活基礎調査結果(厚生労働省2016年)によると、転倒・骨折は介護の原因第4位とかなり上位にあります(第1位は認知症)。持病の有無に関係なく、多くの方が転倒して要介護状態になっているということが分かります。ただの転倒だ、と侮ってはいけないのです。
● 転倒をした場合に特に問題なのは足腰の骨折です
特に高齢者で多い4つの部位は、腕の付け根(上腕骨骨折)、手首(橈骨遠位端骨折)、背骨(脊椎圧迫骨折)、太ももの付け根(大腿骨頸部骨折)とされていますが背骨と下腿を骨折した場合は治療のためしばらく歩けなくなってしまい、さらに足腰の筋力が低下します。その結果さらに転び易くなるという悪循環に陥り、その後はかなり厳しい展開になってしまいます。
● どのように転倒を防いでいけばよいでしょうか?
転倒の原因は大きく2つあります。@転びやすい環境 と A転びやすい体。多くの場合どちらにも問題があります。
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@ 転びやすい環境
実は、一番転びやすい場所は自宅内です。その中でもリビングと寝室がダントツ多いと報告されています。カーペットの縁、敷居、ちょっとした段差や床に放置した鞄などもつまづく原因になりますので、まずはご自宅の中を確認してみてください。
さらに、部屋の明るさは十分か、てすりは必要か、家具の配置が危なくないか、等も転倒事故を防ぐポイントです。
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A 転びやすい体
転倒するリスクとして「筋力の衰え」が最も重要と言われています。床が水浸しでも、バナナの皮が落ちていようとも、転ばないために足の筋力をつけることは非常に大切です。
まずは毎日プラス10分を目安に普段より少し多く歩いてみましょう。特にドイツは車社会ですから皆さんの歩数は思っている以上に少ないかもしれません。とくに高齢の女性では、1日4400歩程度の歩数でも、1日2700歩しか歩かない人より死亡率が明らかに低いと報告されています(JamaOnline 2019/5)。少し多めに歩くことは転倒防止だけではなく他にも様々な効果が期待できそうです。
さらに、筋力アップを目指して筋トレを取り入れてみましょう。
筋トレとしては、スクワットやニートゥチェスト(椅子に座りながら片足ずつ膝を屈伸する)などがおすすめです。日常生活の中では階段を使うことが筋トレとして効果的ですので、ぜひ習慣にしていきたいですね。
筋力を鍛えることは年を取ってからでも決して遅くありません。いつからでも地道に続ければ筋力アップできますし、少なくとも日々進行する筋力の衰えを食い止めることができます。これはとても重要なことです。
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● 今回のまとめは以下の3点です。
@高齢者の転倒事故はとても多く、要介護になるリスクがあります。
A家の中で転びそうな所はないかぜひ確かめてください。
B少し多く歩いて、ちょっとだけ筋トレを実践してみましょう。
いかがでしたか?皆さんも今日から転倒事故に注意して、健康寿命を延ばしていきましょう!
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☆ 尭天桂子先生のプロフィール ☆
東京都のご出身。福井大学医学部卒業後、 国立国際医療センター初期研修後同病院救命救急センター、国立成育医療センター救急診療科にてご活躍され、現在ブランデンブルグ州在住です。ご専門は救急医療、日本救急医学会救急科専門医です。 今回のご執筆は、2019年6月6日に在ドイツ日本大使館ホール(べルリン)でのご講演の要旨を新たにをまとめてくださったものです。
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